2012年12月5日水曜日

飲み屋で賛美


『明るい窓』(病院職員ニュースレター)11月号
チャプレンからのメッセージ


先月、出張でニューヨークに行ってきた。ミーティングや見学が全部終わって、日曜日の夕べはフリーになった。今回は、マンハッタンではなくて、あえて庶民的な地域であるブルックリンを拠点にした。

翌朝の飛行機もあるので、一晩だけ独身になるチャプレンはどのように時間を過ごすか。それはもちろん、バーに行ったのだ。

事前に調べてあった「The Trash Bar」というお店だったが、夕方6時ちょっと前に着いたら、想像以上に名前にふさわしく、山ほどのごみ袋はお店の真ん前に置かれ、玄関は落書きだらけで、床には何年分のこぼされたビールの跡が残っている。

薄暗くて狭いお店の中に入ると、「こんばんは。奥の部屋へどうぞ」と女性バーテンに案内される。


奥へと進むと、小さいライブハウスの空間になっている。ステージの前に種類バラバラの椅子が置かれている。バンドメンバーが音響チェックを始めている。

端っこの場所で座って、礼拝が始まるのを待つことにした。

そうだ。このお店は、毎週日曜日の夕方だけ貸切状態になって、教会がここに集うのだ。Church@Trashと名付けられ、自分たちの建物を待たないでこういった形で教会をやるという話を知って、興味を持って足を運んだわけだ。

どんどん人が集まる。僕と同じ年代あるいはもっと若い人がほとんどで、およそ20人ぐらいが集まって来た。とても暖かい雰囲気になり、僕にも何人かが声をかけてくれる。日本から来たと知られると、8年間東京で勤めていた女性に紹介していただき、アメリカ人同士でもしばらく日本語で会話をする。

いよいよ礼拝が始まる。4人のロックバンドの伴奏で聞いたことがない讃美歌(ロック風)を歌ったり、お知らせがあったり、聖書も朗読される。全部パワーポイントで映っているから、ずっと手ぶらでいられる。

そしてメッセージがある。説教者だけが僕より年上。と言っても、50代であろう。牧師と言っていいか分からないが、普通の恰好して、話し方も強いブルックリンなまりながら会話のような話し方をする。飾り気のない牧師。

しかも話はとても印象的で、自らの人生についてぶちあけた内容だった。少年の頃、両親の離婚がきっかけで深い悲しみと自己嫌悪に突き落とされた。高校生の時から始まって20年以上、薬物中毒のとりこになっていた、と言う。

そういういわゆる生き地獄からやっと抜け出せたのは、ある教会のコミュニティとの出会いのおかげだったと言う。その暖かいコミュニティを通して、初めて神の愛に気づかされ、少しずつ深く病んでいた心が癒されていった、と。

このChurch@Trashも、いろんな人を迎え入れることができる、暖かい癒しのコミュニティでありたい、というメッセージだった。

十分そうなっているのではないか、と帰り道に僕は思ったのである。イエスが来られたら、飲み屋で集う教会にはまったく違和感を覚えられないだろうとも思った。「大食漢で大酒飲みだ。徴税人や罪人の仲間だ」(ルカによる福音書7:34)と非難されたイエスは、むしろそのようなコミュニティに親近感を覚え、神の慈愛に出会い得る人はこういうところにこそ集まるのだ、ということがお分かりになるだろうと思った。

聖公会とはまったく違う形式の教会でも、同じ兄弟姉妹で、同じ神の癒しの恵みを願っている者であることに感謝しつつ、刺激を受けてチャプレンとしての働きについて、またこの病院が真の癒しのコミュニティになれるように自分が何ができるかについて、いろいろ考えさせられたことにも感謝している次第である。

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