2011年9月1日木曜日

見舞いの場で言っちゃいけないこと

だれか知人が病気にかかったときや入院したとき、見舞いに行ってあげることはとてもいいことである。なお、病人の見舞いはクリスチャンとしての義務でもある。

ただ、病床の場で何をどう話せばいいか、迷う人は少なくない。病院のチャプレンとしても、迷うことはよくある。

何を話せばいいかというよりは、まずふさわしくない話について考えたい。下記の発言は病室でやめた方がいいと思う(と言いつつ僕はいずれもどこかでしたことがある):
1.「元気?」
思わず言ってしまうバカな発言だね。元気だったら入院していないはず。でもこのように挨拶されたら、いくら大変なことになっていてもたいていの日本人は「ああ、元気」と返すのが、実に不思議なことである。
2.「元気に見える」
外見についてのコメントはやめよう。あまり意味がないし、入院中の患者さんはルックスを気になっても管理する余裕はない。しかも、見た感じと心の状況は懸け離れている可能性は十分ある。
3.「良かった!もっとひどいことにならないで済んで...」「まあ、少なくとも足もう一本が残っているさ」
患者さんはそういう見方ができたらいいけど、病気をどう受け止めているかは人それぞれ違うのだから、ほかと比べるのは一切しない方がいい。病そのもの以外の目に見えない苦痛があるかも知れない(例えば、この病気で将来の夢が台無しになった、子供のときに同じ病気でお父さんが死んだ、今までぎりぎり間に合っていた仕事での立場はどうなるか、などなど)。明らかに快方に向かってきたときに「助かってよかった」とはOKだと思う。
4.「実はうちのおじいさんも同じ病気だったのだ...」
家族や知り合いの中で同じ疾患にかかったり、同じ治療を受けたりしても、あまりそういう話を病室でやめよう。(特にその結果は良好ではなかった場合!)患者さんとあなたの知っているケースは、似ていても全く一緒だとは限らない。自分自身の経験なら、ちょっとだけ触れてもいいかも知れないが、たった今、その状況の最中にいる患者さんのことを中心にすべきであろう。
5.「わたしが知っているすごいキノコのお茶をぜひ飲んで欲しい」
治療に関することは、医者に任せよう。実際に病院で、患者さんの病状を中途半端しか分かっていないにも拘らず、いろんなアドバイスをする素人は驚くほど出て来る。気持ちは分かるが、余計の世話に過ぎない。
6.「何か手伝えることがあったら言ってね」
殆ど無意味な表現になる(僕はしばしば言ってしまうけど)。患者さんはすでに自分の無力さを痛感している。特に日本人は、プライドからか恥ずかしいからか、なかなか人に頼みはしない。だから「何かあったら教えてね」と言わず、自分からできることを積極的にしてあげる。こっそりとするか、「○○するからね」と報告するような形で援助を申し出る。ご飯を家に届く。庭の水遣りをする。放課後の子供を家で面倒を見る。猫の世話をする。
7.「きっと大丈夫」
分からないことを口にしない。自分に言い聞かせて、自分を慰めようとしているとしか思えない。患者さんは医者の診断を聞いているから、見舞い客の根拠のない診断はいらない。

逆にかけてあげたい言葉
1.「顔を見たくて来ただけで、すぐ帰る」
みたいな表現。訪問時間を短くしよう(長くても10-15分。患者さんが特に疲れたり、苦しんでいたりするときはもっと短め)。お客さんが来て嬉しくても、エネルギーがかかる。治るために使いたい。
2.「会社・学校・近所・教会の最新情報を聞きたい?」
患者さんはやむを得ず疾患や治療の話ばかりしている。一時的でも病を忘れさせてくれるような「外の世界」の話を聞けるとありがたいかも。ただし、長々と話すのは気をつけよう。
3.「何を言ったらいいか、分からない」
状態が重ければ重いほど、言葉が出て来ない。正直に迷っていることを言うべき。相手もどう関わればいいか迷っているだろう。それを一言で明らかに認めてから、たわいない話や沈黙に入っても、その雰囲気はだいぶ違う。
4.「大変だね」「気の毒だね」「あなたのことを心配しているよ」
本音で一言でも話してあげることは非常に有意義なことになり得る。日本人はあまり心の深い思いを口にしない傾向があるが、やや不器用でも何らかの形で思いを伝えてあげると心強い。

上記の4.と関連するけど、患者さんにとってスキンシップは大きな効果がある。普段、握手する習慣がなくても、病院以外の状況ではそういうことは一切しなくても、例えば帰りに握手してあいさつするとか、軽く肩に手をおいて笑顔で話すとか。手を握って短い祈りをするとか。傷やさまざまな措置に注意しながら温もりのある触れ合いには非常な、言葉にまさる力がある。

まとめてみると、何よりも自分らしくいることがキーだと思う。「あなたのことを大事に思っている」とわざわざ病院に寄って、言葉と笑顔とスキンシップをもって患者さんに伝えることは、病の孤独を乗り越えるのにとても役に立つ。

「効く言葉」や「正しい言葉」はない。その場で元気付けることのできない状況はある。空っぽの慰めは逆に虚無感につながる。

その場にいることがポイントである。病の暗闇の最中でも、患者さんは一人ぼっちではない。それさえ伝われば、見舞いに深い恵みがあると思う。

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