2011年10月27日木曜日

参戦せよ!(ルカ4:14-21)

聖路加国際病院記念・福音記者聖ルカ日礼拝
2011年10月26日(水)15:00

今、読ませていただいた聖書は、イエスが戦争を宣言なさるところでした。

多くの政治家と同じように、イエスはその公の活動の始まりに当たって、その故郷、一番支持率が高いと思われる故郷であるナザレに戻り、そこで立ち上げの演説をされます。そのアジェンダを明かされます。将来的なビジョンを打ち出されます。

そして、その打ち出された将来的なビジョンは戦争だ、ということです。

しかし、どのような戦いを話しておられるのでしょうか。その同胞のユダヤ人が待ち望んでいたような、ローマ帝国の圧政からの解放につながるような戦争ではありません。また、空襲とかゲリラ攻撃など、敵の血を流すような戦争でもありません。また、政権を打倒したり、領土を奪回したりするような戦争でもありません。

そういう戦争でもないなら、では、どういう話なのでしょうか。イエスの言葉を見てみます:
「主の霊がわたしの上におられる。貧しい人に福音を告げ知らせるために、/主がわたしに油を注がれたからである。主がわたしを遣わされたのは、/捕らわれている人に解放を、/目の見えない人に視力の回復を告げ、/圧迫されている人を自由にし、/主の恵みの年を告げるためである。」(ルカ4:18-19)
要は、苛酷な貧困に対する戦い。重い病気に対する戦い。身体的、精神的、スピリチュアルな束縛に対する戦い。社会的抑圧や不正に対する戦い。つまり、人類を厳しく支配している暗闇の力に対する戦争の話なのだ、ということです。

イエスが話しておられるこれらのことの共通点は何なのでしょうか。いずれも人間を歪めることだ、ということです。これらのことによって人間らしく生きることが殆ど不可能になるのです。だからイエスは、人間の本来の姿を取り戻すために戦争を始められるのです。尊厳を持って、生きがいを持って生きる人間、つまり神にかたどって造られた人間の回復のための戦いなのです。

聖書において神が啓示してくださっている根本的な人間理解はこれです:一人一人の人は不思議で掛け替えのない存在である。その造り主にトコトン愛されて、訳があって、たんせいを込めて造られた神の作品である、と。

同時に聖書が教えてくれるのは、一人一人の人間、そして人類全体は、暗闇の力に襲われているのだ、ということです。神に執念深く反対して、神によって造られたすべてのものを堕落させ、破壊しようとする力に。そして人間は神にかたどって造られ、神からその尊厳と価値が与えられているからこそ狙われているのだ、と。暗闇の力はその人間らしさを奪い取ろうとせっせと働くのだ、と。

聖書に照らされて得られる人間理解はそういうものです。

こういった暗闇の力はさまざまな戦線で攻撃をかけます。個々人の罪や弱さや欲張りを通して、あるいは利己心や他人の痛みに対する無関心を通して働きます。構造的な不正や抑圧、または争いや飢饉や貧困という社会的問題を通して働きます。また、病気や天災などいわゆる自然な悲劇を通して働くのです。

イエスは公の活動の始まりに当たって、これらの悪に立ち向かって:もう十分だ!と宣言なさるのです。

そして、この時点からイエスのあらゆる行動は、こういった暗闇の力への全面攻撃でした。病気の人を癒されました。悪霊に取り付かれていた人を解放されました。友のない人の友となられました。社会から疎外されている人、いわゆる「負け組み」の人々と付き合っておられました。悲しんでいる人、苦しみ悩んでいる人を慰められました。物質的に恵まれている人に物惜しみしない喜びを教えられました。弱き者を守らないリーダーたちを激しく非難されました。

これはイエスのライフワーク、その使命、その戦いでした。

わたしたちの戦いでもあります。この病院は、人間の尊厳をおびやかす暗闇の力に対して、確固たる要塞として、前哨地(ぜんしょうち)として設立されているのです。したがって、この病院に関わっているわたしたちは、イエス・キリストに倣って、いろいろな形で戦うよう求められているのです。 
  • 人々の健康を促進し、病を治して、長寿の助けとなる医療を行うよう求められています。
  • 痛み・苦しみを緩和して、病気にかかっている人のQOLを上げるよう求められています。
  • 患者さんやその家族が、勇気と尊厳を持って人生の最期を迎えることを支えるよう求められています。
  • 一人一人の患者さんの置かれている家族環境、社会環境で、その身体的、精神的、スピリチュアルな幸福(well-being)を支えるよう求められています。
このミッションにおいて果たす役割がわたしたち一人一人に与えられています。人間の尊厳のための戦いはわたしたちの戦いです。医療チームも、その質の高い医療を可能にする職員も、臨床の環境に人間らしいぬくもりをもたらしてくれるボランティアも。

だから、この病院は参戦するよう求められているわけです。しかも、わたしたち一人一人もそうです。わたしたち個々人が授かっている命をきちんと受け止めて、感謝をもってそれに応答するとき、他人に仕える形でその恵みに応えるときは、暗闇の力に反撃するときです。わたしたち一人一人も、神からいただいている賜物、才能を人々の幸福のために生かすとき、暗闇の中の光の要塞になり得るのです。

暗闇への応戦に加わろうとする人に、神は知恵と勇気を与えてくださいます。わたしたちは、これからの一年間に向かって、その知恵と勇気を求めて、わたしたち一人一人の働きの上に神の豊かな祝福をお祈りしたいと思います。

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